Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

四季恋草紙 春の巻 七

四季恋草紙 春の巻

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 「やあ、そちらが華宮お気に入りの女官だね」
 咲宮は、母方の身分も申し分なく、次の東宮と目されるほどに勢いのある親王である。けれど開口一番の台詞には居丈高な様子が無く、妹の華宮と同様に、どこか親しみやすさに似た愛嬌があった。
 そして、同母の兄妹であるだけに、顔立ちなどもよく似ている。
 ……顔立ち?

四季恋草紙 春の巻 七

 「は、華宮さまにお仕えさせて頂いております。小夜と申します」
 慌てて小夜は頭を下げた。
 御簾。几帳、屏風。扇子。いずれも、平安時代に貴人たちの顔を隠した家具や身の回りの品である。当時は身分が高いほど、顔を他者から隠す傾向が強かった。
 しかし親王の表情を直接見ることができるとは、どういうことか。つまり、御簾や几帳などはさっぱりと取り払われていたのである。
 実の妹である華宮に対して、直接対面することはまだ、ないことではない。華宮に仕える小夜にも、咲宮は同じ扱いをしてくださったのだった。

 おずおずと顔を上げて、小夜は兄妹を眺める。不躾にじろじろと見るものではないと頭では分かっているのだけれど、つい見とれずには居られなかった。
 「おふたりは、目元がとてもよく似ていらっしゃいますね」
 同母の兄弟姉妹を持たない小夜には、似て当然の間柄が不思議に思えて仕方ない。半分の血のつながりでは、顔立ちが良く似ることも、全く異なることも、どちらもままあることだったからだ。
 「ほんとうに?よく言われるよ。上総には昔から『御簾から覗く眼だけでは、どちらがどちらか分かりませぬ』なんて言われたものだしね」
 朗らかな声で、咲宮は笑う。笑ったときの目の細め方もよく似ていた。同じ笑顔に常日頃接しているからだろうか、咲宮が笑うと華宮が微笑んだような心持ちがして、小夜の気持ちも明るくなる。
 「あら、嫌だわ。お兄様はそれを狙って、悪戯の直後にわたくしをよく連れ出していたのでしょうに」
 つんとそっぽを向いて、華宮が扇子を広げる。ばれていたか、と咲宮の笑みはさらに深くなった。
 「そうそう、実際に手伝ってもらったことも何度かあったね。小夜、聞いてくれるかい?この姫様は昔からお転婆だったから、揃いの水干を着せて兄弟にしたら、悪巧みが僕の仕業とは絶対にわからないと思っていたんだ」
 帝の可愛がっている猫と、中宮の可愛がる子犬をこっそり入れ替えてしまったこと。
 童子姿の妖怪を真似て、そこらの楽器をかき鳴らして遊んだこと。
 なぜか母中宮と上総には見破られて叱られ、それでも最後にはおかしくて皆で笑ったこと。
 賑やかに笑いながら、咲宮はそんな思い出話の数々を明かしてくれた。
 「もう、お兄様ったら!わたくしの仕様もない過去をばらしてしまうために、小夜を呼んだんですの?」
 おや、今頃気づいたのかい?と、しれっと返す咲宮は、華宮とは仲の良い兄妹だったのだろう。小夜は可笑しくて頬が緩みっぱなしで、表情を引き締める筋肉がどこかへ行ってしまったとさえ考えた。

 是非にと乞われ、小夜は琴の音を献上した。それをゆっくりと楽しんだ咲宮は、「お前はこんなに良い弾き手が仕えているというのに、練習もしないのかい?」と華宮を煽る。
 「わたくしにだって、多少ならば弾けますッ」
 むきになって琴柱と格闘する華宮をよそに、咲宮はこっそりと小夜にささやいた。
 「僕ら兄妹の中で、いちばん心根が強いのが華宮だからね。その度胸を僕にも分けてもらいたいぐらいだよ。でもたまに自信を失うと、びっくりするぐらい脆くなるのが玉に瑕でね、昔からの心配の種だった。良い話し相手ができて最近は安定しているらしい、と聞いてほっとしていたんだ。これからも、妹のことを頼めるかい?」
 何気なくささやく声だったが、眼差しは真剣なもので。同母の兄妹とは、かくも労わりあうものなのだろうかと、小夜は感動を通り越して羨ましく思ったほどだった。
 「とんでもない、私の方こそ、たくさんお世話になってばかりです。そんな私でよろしければ、今後とも是非、華宮さまのおそばに置いて頂きたく存じます」
 深々と頭を下げると、小声で「ありがとう」というのが聞こえた。それが嬉しくて顔を上げると、何やら含みのありそうな笑みで咲宮は華宮へと話題を振った。
 「そうだねぇ、僕としてもそれが一番安泰だと思うよ。ねえ、華宮?」
 一番、とは一体何と比べているのだろうか。小夜が不審に思っていると、筝を奏でるのを諦めた華宮が眉を吊り上げた。
 「お兄様!」
 「太政大臣の推挙で仕える娘は、とても良い子じゃないか。お前にはもったいないよ。僕のところに欲しいぐらいだ」
 「橘中将と同じ反応をなさらないで。お母様と上総に言いつけますよ」
 「おお、怖い。見ての通りの我儘姫様だけど、小夜、これからも宜しく頼むよ。でも手に負えなくなったら、いつでもここにおいで」
 「駄目よ、小夜はわたくしのところに居るの。お兄様達になどあげないわ」
 かしましく騒ぐ二人を眺めていると、真意の読めない眼差しで咲宮は言った。
 「冗談でこんなことを言うものか。華宮が手放したがらない程のいい子なんだ、他にやるぐらいなら、僕のところがもらっていくさ」

 妾腹とはいえ、小夜は納言家の娘。更衣として入内できる身分と家柄は、一応持っている。*1 咲宮が東宮になり、やがて即位すれば、その発言力と権力は否応なしに増していく。小夜を更衣にと望まれれば、断るすべなどあるはずもない。
 ――きっと、また会うことがありましょう
 脳裏に、月夜の声がよみがえる。『また』とは、一体いつのことなのだ。このままでは、小夜は自由の利かない身分になりかねない。桐壺だか梨壺だかに閉じ込められて、都の中心で世俗に疎くなっていって。
 世間知らずになるのを嫌と思うのは以前からだったけれど。この、奇妙に募る怒りのような気持ちは何だろう。
 昼間と言わず、早朝でも夕暮れでも夜半でも構わない。さっさと会いに来たらどうなのだ、と人知れず小夜は毒づいた。
 恨み言のひとつや二つ、呟くにも『名乗らずの公達』の名前を小夜は知らない。
 それが妙に苛立たしかった。
 彼の名を知りたいと、切に思った。


*1 天皇の后のうち、大臣家出身の女性を中宮、納言家出身の女性を更衣と呼びます。
(08/01/03〜08 推敲)
第八話はこちらから ≫

ここへきてようやく、『名乗らずの公達』について知りたいと願った小夜。ちなみに、咲宮の豹変にも意味があります。いずれ、書く予定。
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コメント

あけましておめでとうございます♪

ご無沙汰してしまってごめんなさい。(ぺこり)
今年もよろしくお願いします。
インフルエンザにかかっていたとのこと。もう大丈夫なんですか?
お身体、気をつけてくださいねぇ〜。

「四季恋草紙」の続きがUPされていたので、尻尾を振ってきてしまいました。(笑)
「友だち」していると、更新がわかるからうれしいわんww

何気に小夜のまわりって、一癖も二癖もある方ばかりなんでしょう。
これからがとっても楽しみです。

うちにも遊びにきてくださいねww
時たま、変な人間が出没しますが、齧らないと思いますので。(笑)

2008.01.06  宝來りょう  編集

Re:

*宝來りょう さま
こちらこそ、今年もどうぞよろしくお願いいたします!
おかげさまで、インフルエンザは治りました〜。宝來さんも、体調管理には気をつけてくださいませ。
お読みいただいて、ありがとうございます!このお話は小夜を含めて、一筋縄では行かない人間ばかりが登場します。「え、そっちに行くの君らは?」なんて作者が振り回されていますよ(笑)無事に最終話へと収束しますように。
宝來さんのブログ、RSSからこそこそ伺っていますよ^^ このところROM専で失礼してます。小説をまとめ読みできたら、また感想を書きに伺います☆

*Zero さま
ご来訪ありがとうございます。当ブログとジャンルがかけ離れていること、また宣伝のみの内容であることから、コメントは恐れ入りますが削除させていただきます。

2008.01.09  紫藤 ゆとり  編集

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プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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