Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

Calling

SS・短編

 電話なんて、するんじゃなかった。
 「……そっか。うん、……うん、…………それじゃ、また」
 受話器のマークのボタンを押したら、長くて重いため息が出た。ケータイの終話ボタンはいっそ、ため息のスイッチかもしれない。そう思うぐらい、良いタイミングだった。

Calling

 「ごめん、話してる途中に電話なんかして」
 「ううん、大丈夫。それにしても、やたら、つまんなそうに電話するよねぇ」
 有加は不思議そうな顔でこちらを見ながら、スミノフを傾けた。わが友ながら、いい飲みっぷりをしている。梅酒をひとくち飲んで、それに答えた。
 「うん、最近長電話ができなくなってるんだよ。わざわざ電話してまで話すことって何だろう、って考えちゃう」
 携帯電話が便利になって。電話と、メールと、連絡手段が増えた今では、電話は「今すぐじゃないと」という連絡手段のように思えて、妙に苦手意識が増した。
 便利なものにむしろ不便さを感じる自分が、なんだか嫌だと思う。
 「何でもいいんじゃないの?内容がなくても、楽しければそれで」
 有加の言うことはもっともだ。付き合い始めたころは、他愛のない電話で幸せをかみ締めた。毎日、毎日。
 今はなんだか苦しくて、息がつまる。

 声なんて、聴くんじゃなかった。
 「最近、電話するのがすごく辛い。電話するどころか、話すのさえ辛いよ。これって、何?って感じ」
 「気まずいの?気持ちが薄れたとか遠のいたとか」
 「別に、そんなんじゃない……と思う」
 会えなければ純粋に寂しい。だからきっと、まだ好きなのだろう…と思うのはごまかしなのだろうか?

 お互い忙しくて会えないのなら、会えないなりに連絡を取るべき。だからせめて、メールなんて味気ないものじゃなくて、声を聞きたかった。
 声を聞いたら、安心すると思ったのだ。電話であれば、耳元でささやかれているような気分になれると期待した。それなのに電波はせっかくの声をいびつに潰して、的確にその声を伝えてはくれなくて。
 がっかりしたら、何を話せばいいのかさえわからなくなった。
 「向こうがすごく忙しいのをわかってて、無理させてると思うのも嫌なのに。どうして、電話なんてかけたんだろう」
 気をつけて、とか。身体こわさないでね、とか。そんなありきたりの台詞を吐くために、わざわざ「今、大丈夫?」と話しかけたわけじゃない気がする。でも、だとしたら私は何を言いたくて、何を聞きたくて電話をかけたんだろう。


 何を、しているんだろう。


 しばらく沈黙を保って、有加は話し始めた。
 「うちのサブマネージャー、部署内では恐妻家で通ってるんだけどさ」
 「ああ、町田さん?あの忙しそうな人」
 マネージャーが放り出した仕事を一手に請け負う、大変に忙しい身の上らしい。それに負けず明朗快活に振舞う、部署にはなくてはならない人なのだそうだ。
 「毎日夜八時を過ぎるたびに、電話で奥さんに平謝りしてるのよ。そんなに謝り倒さなくても、っていうぐらい」
 ――ごめんなさい、今日もまた遅くなりそうです。ハイ。……え、『ママ』ってちゃんと喋ったの?!うわー………聞きたいんだけど…帰る時間帯には起きてないよなぁ、流石に。うん、うん、そうだね、娘の寝顔しか見られない父親で、申し訳ないです。晩飯?軽く食べたけど、帰ってからしっかり食いたいかも。おかず余ってたら、残しといて。うん、ありがと。
 「半年前に子供生まれたばっかりで、奥さんも大変なんだろうなって思うんだけど。毎日電話も大変だし、怒られてるわりに町田さんにこにこしてるもんだから。ふと気になって、ある日訊いたのね」

 「町田さんって、Mでしたっけ」
 「え?いや、俺は軽くSだよ?坂巻さんも知ってるでしょ」
 「軽くじゃなくて……いえ何でもないですよ。奥さんに電話で怒られてにこにこしてるから、おかしいなぁって思っただけで」
 「ああ、そのこと。仕事で怒りすぎて疲れてるから、少しだけ怒られてみるとなんだか新鮮でー」
 「それってMのはじまりじゃないですか」
 「確かに。…とまあ、冗談はさておき。向こうが怒ってるとさ、ああ寂しいんだなってわかるから、逆に安心するんだよね」


 仕事とパートナーとどちらが大事かなんて、愚かな問いを投げかけるためでなく。
 ただ寂しいと相手に伝えるために、発せられる表面的な怒り。


 手段は怒りでなくても構わないはずだけれど。
 わたしは感情を、伝える努力をしていた?

 いつも、抑えるばかりで。
 自分にも、相手にも、尚更寂しい思いをさせてはいなかった?


 「だから、さ。たまには怒ってみても大丈夫なんじゃない?」
 すごく遠回りでごめんね、と言いながら有加はキッチンに空き瓶を置きに行く。次は黒ビールがいいなぁ、あったっけ、と冷蔵庫をあさる音をよそに、美沙子は立ち上がる。
 「ごめん、有加。ショッピング、来週でもいい?」
 腕時計を一瞥する。水色好きだよねと選んでもらった、澄んだターコイズブルーの文字盤は、終電より三十分後の時刻を指していた。手早く帰り支度をする美沙子を見て、二丁目の交差点なら三分でタクシー捕まるよ、と有加は笑った。

 電話で寂しいを伝えてみるのもいいだろう。きっと、嬉しそうにするだろう。
 けれどその表情を見逃してしまうのは、とても勿体無い気がするから。

 「――あ、もしもし?」
 真夜中でもいい、会いに行こう。嬉しそうに細める目を、ちゃんと見届けに行く。
 だから機械越しじゃないその声で、名前を呼んで。



仕事を投げ出してでも優先してもらいたい、というのは醜悪で私は嫌。オンがあるからオフがある。どちらも大切だと思います。
その一方で、仕方ない、と諦めることは簡単。予定が潰れたなら「残念だ」と主張することも、時にはきっと必要なのでしょう。


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コメント

この時期にはグッと来る作品ですね。


何かの拍子に、何かが新しく開くみたいな作品って、たくさん集まると本に出来るんじゃありませんか?
「ちょっと勇気が出来るストーリー」

発行の際はお手伝いいたします〜!

2007.12.17  けんねる   編集

Re:

コメントありがとうございます!返信遅くなってごめんなさい。
たくさん集まるほど……書けるといいな^^;
同じ言葉から別の話をインスピレートして書く訓練も、いずれしなければなんて思っていました。

2007.12.26  紫藤 ゆとり  編集

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プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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