Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

四季恋草紙 春の巻 参

四季恋草紙 春の巻

第一話 / 第二話 はこちらからどうぞ。


 「ねぇ、………じゃない?」
 「いやだ、……ですもの」
 ひそひそと笑いさざめく声が聞こえる。小声なのに、その音がしっかりと聞こえてきてしまうのは、いったいどういう訳なのだろう。
 「これだから、…………」
 「………をまるで知らないのね」
 声たちは御簾の奥からやってくる。途切れ途切れにしか聞こえないけれど、内容など高が知れていた。
 自分を指して、蔑んで笑っている。御簾と扇で隠した顔はきっと笑いにゆがんで、塗り固めた白粉にひびでも入っているに違いない。

 どこにでも、こういう人たちはいるものなのだ。継母と異母姉を思い出して、小夜はこっそりため息をついた。


四季恋草紙 春の巻 参


 紫式部。清少納言。和泉式部。
 いずれも、女流文学を花開かせたことで名高い者たちだ。彼女らは「女房」と呼ばれ、中宮など天皇のきさき、あるいは内親王など、高貴な身分の者に仕えた。内裏に仕える女官のうちでは高い位置におり、その多くは教養や舞楽に優れ、家庭教師や秘書のような役割を果たすのだ。
 「どうして、私がそんな……」
 今上帝の内親王、華宮[はなのみや]に女房として仕える気はないかと父が尋ねたのは先日のこと。
 けれどこれまでにそんな話が出たことも無く、そもそも縁もゆかりも無く。
 小夜にはただ、なぜ、という他に言葉がなかった。
 「以前、太政大臣のお邸に招かれて琴を披露したことがあるだろう。あれが宮さまのお耳に留まってね、大臣を通してお話があったんだ」
 確かに、筝の琴は好きだし、得意ではあった。太政大臣邸に家族そろって招かれ、琴を披露したことも覚えがある。
 華宮は太政大臣の姪にあたる。彼から話を受けるならば、小夜も父も内裏において強力な後ろ盾を得ることができる。それだけに、父は大層乗り気であった。日頃寡黙な彼には珍しく、興奮気味に話を続ける。
 「どうだろう?華宮さまは年ごろの近い女房をお探しでいらっしゃる。筝の琴をお教えするのは表向きで、実際の役目は話し相手になってさしあげることだ。行ってみる気はないか?」
 華宮は小夜のひとつ年下だという。
 やんごとなき方から申し出があったとして、大きな理由が無い限り小夜や父が断れるはずもない。

 かくして、桜散らす雨のころ。小夜は内裏へ、華宮に仕える者として参じた。


 (面倒だなぁ……)
 華宮に挨拶を済ませたのが最初。続いて、華宮の生母である中宮に挨拶を…と案内を受けている最中だった。
 廊下を進んでいると、隣接する部屋から嘲笑が聞こえる。
 「いくら宮さまからお話を頂いたといえど、宮中へ参じるなんておこがましい」だの、「身分不相応なのだから断るのが礼儀だろう」だの、そんなことを言われているのだろう。

 小夜の生活は今までこんな嘲笑ばかりだったから、慣れていないわけではない。
 でも、傷つかないと言ったら嘘になる。
 華やかで、憧れの的であった宮中も、所詮はこんなものか。ずっと過ごしていたあの狭い部屋と、何も変わるところはないのか。
 新しい世界に足を踏み入れて、わくわくしていたはずの気持ちが、すうっとしぼんで消えそうになった。


 新しい世界に来たといっても。大して未来がないことは、変わらないのではないのか?


 立ちすくんだ足を奮い立たせて、先に歩いていった案内を追いかけようとする。
 その方向から、戻ってきた者がいた。


 「ごめんなさいね。乳母の上総[かずさ]は足が速くて。初めてだと、迷ってしまうわよね」
 母君と仲がいいから、早く会いたくてたまらないみたいなの。そう言って、華宮はころころと笑った。
 「あ…いえ。こちらこそ、お手間を取らせてしまって」
 上総ではなく、華宮その人が迎えに来るなんて。小夜はひどく恐縮してしまった。
 華宮は小夜の恐縮ぶりを見て、続いて御簾の方へと目をやった。笑いさざめく声はまだかすかに聞こえている。しばし沈黙して、華宮は言った。
 「……いいの?」
 「慣れておりますから」
 「でも」
 気遣わしげな視線を向けられて、小夜は少し感動してしまった。これまで陰口を叩かれる一方で、優しくされたことなど皆無に等しかったからだ。
 心配されたことになんとか感謝を伝えたくて、大丈夫だと言いたくて。焦っていたら、つい本音がこぼれた。
 「私には心はありますから、嫌でないわけはありません。けれど、心無い方に嫌と言ったところで、心が無ければおわかり頂ける道理がありませんでしょう」
 御簾の奥の声がぴたりとやんだ。
 そこではたと気づく。御簾の奥の方々がどれほど上の人々か知らないのに、こんなことを口走ってはまずかったのでは。
 小夜が不安になり始めた頃、朗らかな笑い声がその場に上がった。
 「ほんとうね、その通りだわ!では、無駄な努力などせず母君のもとへ参りましょう」
 「あ、はい」
 助け舟を出してくれたのだ、と気づいたのは中宮の部屋にだいぶ近づいた頃。宮中でもまれに見るほどの、愚痴っぽくて意地の悪い間なのよ、と苦笑しながら華宮は教えてくれた。
 「それをいちどきに黙らせるなんて、なかなかいいことを言うわね。胸がすっとしたわ」
 ぽかんとする小夜を見て、もう一度華宮は笑った。

 ああ、場所など関係ないのだと小夜は思った。
 そこに素晴らしい人がいれば、それだけで暮らしは楽しく良いものになるのだと、心から感じた。
 少し未来を考えてみる、そんな気持ちになれる気がした。


 約束を、した。数日前に逢った、名無しの公達と。
 「きっと、また会うことがありましょう。次は昼間に現れますから、顔をよく見せてください。そうしたら、またお話をしましょう」
 良い話し相手ができそうよ、と中宮に伝える華宮を見て。優しげな笑みを向けてくれる中宮を見て。
 あの人はどうしただろう、と考えた。公達であるならば、宮中に居れば容易く会えるはずなのだ。もしも彼が、華宮にお仕えする道を作ってくれた恩人であるならば。一目会って、礼を言わなければ。
 そんなことを、考えた。
(07/10/02〜06 推敲)
第四話はこちらから ≫

気丈でさっぱりした小夜を、華宮が気に入ったお話。少しずつ大事に書いていたら、徐々に長くなっていってしまいました。
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コメント

No title

ばっちり読んじゃいました〜。

毎日読むにはこのくらいが僕にはちょうど良いです。

これ以上多いと寝てしまう(笑)。

2007.10.08  けんねる   編集

No title

失礼しました。拙サイトに来ていただいてたんですね。
しかも、悲し〜いふたつを読んでおられるとは。

実は大きな声で言えませんが平安物好きなんですよ。
授業中、ノートの隅に貴族男の姿、いたずら書きしてました、はい、小学校高学年に。思い返すとちょっと不気味です(笑)

細部や心理がよく書けてて楽しめました。
続きも期待してます。ポチッと。

2007.10.08  銀河系一朗  編集

Re:

*けんねる さま
あんまり長くなると、紫藤の集中力ももちません(笑)
文章から堅苦しさがまだまだぬぐえないので、
できるだけ読みやすく見えるよう努力中です。
読んでくださって、ありがとうございます!

*銀河系一朗 さま
お越し&コメント、ありがとうございます。
はい、歴史小説というのについついひかれて…^^;
悲しい話ですが、負けずに強く生き抜いた早季姫の姿は素敵ですね。

四季恋草紙、時代考証の甘い話ではありますが、
平安ものがお好きな方にお読みいただけて嬉しいです。
牛車のごとく展開がとろいですが(笑)、頑張って続けていきます。
感想、ありがとうございます!

2007.10.08  紫藤 ゆとり  編集

とてもツボですぅvv

こんばんわ、宝來です。昨日は遊びに来てくださってありがとうございます。「四季恋草紙」読ませていただきました。

新月と16番目の月・・・・素敵な組み合わせですね。
「銀金」だけじゃなく、ジャパネスクも好きな宝來はこういうのもGOOv-91です。
十六夜ちゃん。気の強いところが好みですねぇ。
紫藤様の文章は達者なうえ、柔らかくて大好きです。まだ、ほんとに大学生なんですかぁ?
続きをとても×2、楽しみにしています。

「友達申請」したのですが、何故か出来ませんでした。(うるっ)

2007.10.09  宝來りょう  編集

Re:

*宝來りょう さま
ジャパネスク、良いですよね〜♪
四季恋草紙、読んでくださってありがとうございます。
後々調べたら、朔月って新月のことなんですね。足して満月にならんじゃん!と思ってもあとの祭り。キニシナイことにしました(爆)
詰めの甘いところ&適当さが、バリバリ大学生でございます(笑)
四季恋草紙も水の守りも、「絵本のような日本語」を心がけています。熟語を使い慣れると、和語がとっさに思い浮かばなくて、よく悶えています。
続きも、頑張りますね。

友達申請、設定を何もいじってないので大丈夫だと思うのですが…
あちこちのバグは治ったのかしら、新管理画面。大丈夫か、FC2。
ということで、こちらから申請させていただきました!
どうぞ今後とも、よろしくお願いします☆

2007.10.09  紫藤 ゆとり  編集

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りなのブログ・2007.10.09

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プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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