Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

朝のリレー

SS・短編

 目を開けたら、まぶしい光が射してきた。強く目をつぶると、まぶたの血管が赤く透けて見える。
 ため息をついて、呆然とまた目を開けた。つまりは、寝過ごしたのだ。



 ここ三日間ずっと、徹夜に近い生活をしていた。
 肌も胃も荒れたし、吐き気を伴う頭痛がしたこともあった。文字通り、身体が悲鳴をあげていたのは知っていたけれど、あえて自分に無理を強いた。
 ほんとうはもう一晩だけ、同じ無理を重ねなければならないはずだった。
 耐え切れず、倒れるように眠りについたのは、たぶん日付が変わる前。仮眠などと言ってひとたび眠ってしまえば、簡単には目覚めないことを、よく知っていたのに。

 起きていられなかった、最後の夜。明るくなった室内にも、快晴の青空にも、その名残なんてどこにもなかった。
 いつもと変わらぬサイクルで闇を払った太陽が、空から私を見下ろした。まるで勝ち誇ったように地上を照らしている。

 ぼんやりと時計に目をやる。振り子のゆれる置時計は、午前十時。隣で充電していたケータイのLEDが、三秒に一度、短く空色に光った。メールを受信している、という意味。

 そしてそれは、最後のメール。
 私が目覚めるより前に、遠くへと旅立った、彼からの。


 昔から私は、夜更かしが苦手だった。朝、誰よりも早く起きて、夜明けの空を眺めるのが好きだった。
 一方の彼は、朝が苦手だった。新聞配達のバイクの音、鳥の声が響くまで、人々が寝静まった沈黙を楽しむのが好きだった。
 身体に染み付いたサイクルが違うだけ。誰もいない静寂を好む、私たちはきっと似ていた。そのしじまで、隣に互いの姿があることに、途方もない安心感を覚えていた。
 だから一緒にいて幸せだったと思うし、うまくいっていたのだと思う。

 別れは、なりゆきであり意思であった。
 「遠距離恋愛」という意地を張ることもできただろう。でも私はそうしなかったし、できなかった。あまりの距離の遠さに、おののいてしまったのだ。
 生まれてこのかた、ずっと同じ街で暮らす私には、「言うほど遠くないよ」と言われても実感などわかない。これが今生の別れなのだと、根拠もない妄想を信じてしまいそうになるほど。
 されど私は、引き止めたり、後先を省みず追いかけたりできるほど、子供ではなく。
 そして、待っていてあげるから、と微笑めるほど、大人でもなかった。

 だから、なりゆきだけど、意思。


 ベッドから降りて、ケータイを手に取る。メールの受信時刻は、午前四時半。たぶん彼のことだから、いつものようにその時間まで起きていて、そのまま眠らずに家を、日本を出たのだろう。
 ともに過ごした時間の長さが、「こうしているだろう」という予想を教えてくれる。日常であるほどその予想は的中して、そうして私は彼を知っていく。けれど今日からは、そんな風にして彼を知ることは叶わないのだ。

 自分の知らない彼が増えていって、それを知っていくのはとても楽しい。
 変わりゆく彼を知ることができないのは、とても辛い。

 最後のメールに、いったいどんな言葉がつづられているのか。
 もし今読んで、何かを思ったとして、返信してもレスをくれるのは彼じゃなく”mailer-daemon”。空港に向かうとき、ケータイは解約しているはずだから。
 そして私は何を彼に伝えたいのか。
 「会いたい。ずっと言えなかったけど、でもやっぱりそばにいてほしい」なのか、
 「大好き、愛してる」なのか、
 「いつまでも忘れない。だから、ちゃんと羽ばたいて、夢を叶えてよ」なのか、
 それすら自分でもわからないのに、もうどの言葉も彼に伝わることはないのだ。

 最後のメールを、今は読む勇気がない。「どうして引き止めなかったんだろう」って後悔して、きっと泣いてしまうから。
 それでも気になって気になって、内容が知りたくて仕方がなくなるに違いない。
 たぶん今夜は寝付けないだろう。そのまま私の好きな朝を迎えて、人々が変わらぬ日常を刻んでいる頃、彼は遠い地できっと眠りにつくのだろう。

 谷川俊太郎の詩が頭をよぎる。とめどなく、地球をめぐりつづける朝のリレー。
 一日の始まりを受け渡すみたいに、この気持ちが彼まで届けばいいのに。

 乱暴にタオルケットを跳ね除けて、ベッドから起き上がる。シャワーをあびて、ミネラルウォーターを飲み干して、ブランチを考えて…
 今日の私に受け渡された朝が、そこにあった。



パソコンの整理をしていたら、突如現れた一品。
いつ書いたかは不明ですが、最近と書き方が近いので、折角なのでアップ。
タイトルは、谷川俊太郎氏の詩のタイトルから頂きました。
静かなイメージなのに、確固たるものがあるようで、この詩は大好きです。

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コメント

No title

何処の部分かはわからないのですが
この作品好きです。
内容は彼のことを隅にもっていき
強く生きようとする部分気に入ったかなぁ。

でも、しんは、こういう恋はできない。
好きになったら、とことんだから(苦笑
遠距離恋愛でも大丈夫なタイプだけど、
思われる人にとっては窮屈な思いをさせてしまうとは思っている(汗

よくわからん感想になったけど ファブィ!

2007.09.29  見習猫シンΨ  編集

No title

いいですねぇ。

この作品。



じっくり読んでしまいました。


「彼女」はメールのメッセージを読んだのかなぁ。

それとも読まずに消してしまったのかな。





!!!


もしかして、実話ですかっ!
ひょっとして、実話ですかっ!

なんて思ったりもしました〜。



とってもステキな書き手さんに巡り会えた気がして最近嬉しいんですよ。

ありがとうございます。

2007.09.29  けんねる   編集

Re:

*見習猫シンΨ さま
珍しく、ハッピーエンドでないものを書いてしまいました。
最後のメールに何が書いてあったのか、続きがどうなるか、それは私にもわかりません(書き手なのに!笑)。
読む人それぞれのご想像にお任せです。
ファブィありがとうございます!

*けんねる さま
実話じゃないですよ!(無駄に太字。笑)
インスパイア元はたくさんありますが、もし私がこうなったときどうするのか、
理想50%+現実50%で想像してみました。
少なくとも今の私は、たとえ最後でも、会えるときに会っておかなければ勿体無い、なんて思います。
ステキな書き手と言って頂けて、恐縮です!!こちらこそ、書いたものにこうして感想を頂くことができて、本当に幸せです。ありがとうございます!

2007.09.30  紫藤 ゆとり  編集

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プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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