Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

きみを忘れない

SS・短編


 冷たい瓦礫のうえで、人でも機械でもない、ふしぎな歌声。
 「何が歌っているの?」
 聞きなれぬその響きに、僕は尋ねた。

 「歌い声じゃないわ、楽器の演奏よ」
 歌声がやんで、綺麗な声が聞こえた。くすくすと笑いさざめくのは、鈴を振るような高い声。やがて、瓦礫のてっぺんからひとが顔をのぞかせる。少女だった。
 「……楽器ってなに?機械が歌っているの?」
 彼女は苦笑して、まぁそうかもねとひとりごちた。
 機械のものでない返事をきいたのは、そういえば久し振りだったと後になって気がついた。




 「この世界にまだ、<うた>を知っている人がいたのね」
 彼女は嬉しそうに言った。朱色の唇から飛び出すのは、僕には聞いたこともない旋律ばかり。
 「<うた>ならみんな知ってるさ」
 僕がハミングしたのは、機械や人間が人工子宮から排出されるときに、決まって流されるメロディー。きっと僕がこの世に生み出されたときにも流れたであろう、曲。その音の振動数の増減を、自分の声で真似してみることを「歌う」というのを、そういえばいつ知ったのだったか。
 「そうじゃないわ。音程の上下を、楽しんで作り出さなければ<うた>とは言わないもの」
 じゃあ僕は楽しんでいるのか。楽しい、という感情が僕に存在していたことに僕は驚いた。そうそう、「驚く」という感情に気が付かせてくれたのも彼女だ。ほんとうに、いろいろな発見をさせてくれる。
 「そうなんだ……」
 「自分でじゃなくても、<うた>をつくりだすことはできるわ。その道具が、さっきの」
 「さっきの機械?」
 「機械とは違うかもしれない。だって機械は勝手に動いてくれるでしょ?これは、あたしたちが音を吹き込まなければならないから」
 入力を要求するなんて、不便だなぁ。そう呟くと、彼女は楽しそうに笑った。
 「不便かもしれないけれど、でも楽しいわよ。だって好きなように<うた>をつくっていいんだもの。これはね、瓦礫のなかに、落ちていたの。先人たちがつくりだしたものも、そう捨てたもんじゃないってことよね」
 世界を破壊せしめた先人たち。この世界のあちこちに、彼らの遺物とも呼べるがらくたたちが山のように積まれている。
 「やってみる?……えーと、きみは」
 「僕?僕は756-1-30-56-6189065だけど」
 「……は?」
 「認識番号を聞いたんだよね。ちがった?」
 そう訊くと、彼女はひどく不思議そうな顔をした。
 「そうじゃなくて、名前をきいたんだけど……」
 「名前なんてないよ。だって番号があれば事足りるじゃないか」
 幾年と生きてきて、いままで不便を感じたことはなかったように思う。だから必要ないと思っていた。
 「きっと、不便になるわ。それにあたしはひとを番号で呼ぶなんて絶対に嫌。だから、あたしがあなたに呼び名をつけてあげる」
 それはひどく、心躍ることのように思えた。
 「今日から、あなたはルタンティスって呼ぶわ。あたしはシャンティって呼ぶの。いい?」
 「いいけど……それは、どういう意味のことば?」
 <響かせるもの>という意味だと、彼女は答えた。

 彼女、シャンティはほんとうに不思議な存在だった。僕にとっては驚きの連続ばかりで、それがなぜだか心地よくて、毎日その瓦礫の山へと通った。


 「すみません、人を探しているんですが!」
 町の中心の戸籍データベースで僕は叫んだ。管理ロボットが同じトーンで返事をする。
 「探している人の認識番号を教えてください」
 「認識番号なんか知らない。女の子で、僕と同じぐらいの年で」
 叫び声に、管理ロボットではなく奥から人がやってきた。どうしました、という穏やかな声。
 「人がいきなり、いなくなってしまったんです!突然、いなくなるような子じゃないのに。シャンティって女の子なんです、いつも町の西の山にいて」
 管理者は少し考えるしぐさをして、そして言った。
 「その女の子のことは知りませんが……ひとつ心当たりはありますね。町の西側に住んでいた、認識番号下7桁が632で始まる人々には先日、住宅地の拡大のための瓦礫撤去で、移動命令が出されました。きっと、そのせいでしょう」
 「移動命令って……」
 僕も知らないわけではなかった。僕だって、前はこことは違う町に住んでいて、そこで大規模な工事が行われるために移動命令が出されて、そしてこの町に来たのだった。
 「移動先は分かりますか?」
 「残念ながら、それは認識番号の下4桁によってランダムに割り振られていますので、分かりかねます」
 声を失くした僕に、管理ロボットが話しかけた。
 「他に何か用件はありますか、756-1-30-56-6189065」
 何も答えずに、僕は戸籍データベースの建物を後にした。答えなくてもロボットは気にしない。彼らはそういう存在。
 ひとつだけわかったのは、僕を「ルタンティス」と呼んでくれる声はもう存在しないということだった。

 端から壊されゆく瓦礫の山の頂上で、彼女のもっていた楽器を見つけた。
 彼女は<うたうもの>だった。そして僕はそれを<響かせるもの>。
 彼女が教えてくれたたくさんの歌を、僕はその楽器で吹いた。足りなくなれば、気に入ったものを何度でも吹いた。自分でも<うた>を作った。
 決して楽しいとは言えなかった。その逆の感情が僕にも存在することを、今彼女はこうして教えてくれている。それでも、<うたう>ことを知っている人を減らしたくなくて、彼女の為に、楽器を吹き続けた。
 いつまでも、吹き続けた。
(04' 11月 記、 080629 改稿)




四年半も前に書いた短編が、掘り起こされました。
漠然と世界観がよみがえったので、手を加えて掲載。
インスピレーション元は、明和電機の作品「EDELWEISS」シリーズ、
「TSUKUBA」シリーズ。それから、Do As Infinityの曲「科学の夜」でした。
ちなみに、名前の由来はフランス語の動詞「retentir」と「chanter」から。

お気に召しました方、なんかよくわかんなかった説明しろよ!と思った方、
おだてて続きを書かせようと企んだ方などなどなど、動機は個人の自由です。
とりあえず紫藤の書く気に火をつけてみようと思ったならば、
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プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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