Antennaのかたまり

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

四季恋草紙 春の巻 十

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  潮時だろう、と思った。
 「もう疲れてしまったよ。夜も更けた、流石に眠らせてくれるかな」
 疲れたのは事実。眠りたいというのは嘘。体のいい口実を盾に、のんびりと独りで飲み明かしたい気分だった。
 十日の月は南天を越えて、屋敷の屋根の向こうへと隠れる頃合いだ。広く宴に適した二条の屋敷も、夜半をとうに過ぎた今となっては寝静まった人が増えて閑散としている。
 彼――咲宮の周辺を除いては。

四季恋草紙 春の巻 十

 

四季恋草紙 春の巻 九

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 宴は和やかに続いていく。気づかぬうちに、春の宵は更けて。
 「先ほどの琴をしかと聞かせてもらったが、いや実に素敵な――これ、同じ年頃の娘さんはこんなにも大人びているぞ。其処のおてんば姫宮も見習ってはいかがかな」
 「もう、おじいさまったら!」

四季恋草紙 春の巻 九

 

四季恋草紙 春の巻 八

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 小倉百人一首に、次のような和歌が収められている。
 『みかきもり 衛士の焚く火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそおもへ』
 みかきもりとは御垣守、つまり宮廷の門を警護する者たちのことで、衛士もまた同様である。夜間の警護には衛士たちが火を焚いたが、これが漆黒の闇にひどく映えたことは想像に難くない。
 現代人がイルミネーションを眺める感覚に似ているのであろうか。この「衛士達が門のそばで焚き続ける火」に、見とれる者は多かったと思われる。

四季恋草紙 春の巻 八

 

四季恋草紙 春の巻 七

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 「やあ、そちらが華宮お気に入りの女官だね」
 咲宮は、母方の身分も申し分なく、次の東宮と目されるほどに勢いのある親王である。けれど開口一番の台詞には居丈高な様子が無く、妹の華宮と同様に、どこか親しみやすさに似た愛嬌があった。
 そして、同母の兄妹であるだけに、顔立ちなどもよく似ている。
 ……顔立ち?

四季恋草紙 春の巻 七

 

四季恋草紙 春の巻 六

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第一話 / 第二話 / 第三話 / 第四話 / 第五話


 三月になった。*1
 桜の葉の緑は陽射しとともに日々鮮やかさを増し、人々のまとう衣の色調も躑躅[つつじ]や藤など、次の季節の色彩へと移り変わりはじめていた。
 小夜が賑々しく[にぎにぎしく]も橘中将との体面を済ませてから、三日と経たぬある日のこと。華宮のもとへと、宴の知らせと招待を告げる文が届いた。
 書状は、みずみずしい若葉を思わせる薄緑の和紙に、美しい筆跡でしたためられていた。こんな大変に趣味の良さそうなもの、一体どこから届くのだろう。小夜が疑問に思う横で、華宮が書状を読みながら眉間にしわを寄せた。小声で毒づく。
 「……そりゃあ、ぼろを出したって全部は口走って帰れないはずだわ」

四季恋草紙 春の巻 六

 近々、とうっかりこぼしてしまった橘中将のことらしい。彼はそんなにも上位の方から口止めをされていたのだろうか?
 「誰がこんな馬鹿らしいこと言い出したか知らないけれど、それに乗ってしまうおじいさまもおじいさまだわ」
 ため息をもらす華宮は、宴の趣旨が気に入らない様子。なぜだろうと小夜は頭をめぐらせる。えーと。
 華宮の生母は藤壺中宮。その父、つまり華宮の祖父と言うと……手紙の主は、太政大臣だろうか?

 

四季恋草紙 春の巻 五

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第一話 / 第二話 / 第三話 / 第四話


四季恋草紙 春の巻 五

 「相変わらず、ふてぶてしいお顔ですのね。わたくしの心が繊細だと感じさせていただいて、いつもありがたく思いますわ」
 「いえいえ、御礼をおっしゃって頂くにはおよびません。華宮さまは私めよりもずっと心意気がお強いと、兄宮さまからいつも伺っていますから」
 奇妙な光景だなぁ、と小夜は思った。
 華宮と、少し年上の男がひとり。どちらもにこにこと微笑んで、表情とは異なる言葉を交わしている。

 

四季恋草紙 春の巻 四

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第一話 / 第二話 / 第三話 はこちらからどうぞ。


 興ざめなもの。
 花びらが散ってしまった桜。季節は終わったのに、手元に残ってしまった桜色の和紙。
 桜が散ってしまうと、途端に物憂い気分になってしまうのはなぜだろう。文机にもたれて、小夜はため息をついた。

四季恋草紙 春の巻 四


 

四季恋草紙 春の巻 参

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第一話 / 第二話 はこちらからどうぞ。


 「ねぇ、………じゃない?」
 「いやだ、……ですもの」
 ひそひそと笑いさざめく声が聞こえる。小声なのに、その音がしっかりと聞こえてきてしまうのは、いったいどういう訳なのだろう。
 「これだから、…………」
 「………をまるで知らないのね」
 声たちは御簾の奥からやってくる。途切れ途切れにしか聞こえないけれど、内容など高が知れていた。
 自分を指して、蔑んで笑っている。御簾と扇で隠した顔はきっと笑いにゆがんで、塗り固めた白粉にひびでも入っているに違いない。

 どこにでも、こういう人たちはいるものなのだ。継母と異母姉を思い出して、小夜はこっそりため息をついた。


四季恋草紙 春の巻 参


 

四季恋草紙 春の巻 弐

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 目が覚めたら、いつもの朝だった。
 昨夜のできごとは夢だった、とさえ考えてしまった。

四季恋草紙 春の巻 弐

 中納言家の大君(おおいきみ、長女のこと)のもとへ、文がやってきたのは昨日のこと。
 この文に、北の方も大君も揃って喜び、紅を衣装をと準備に奔走し、上を下への大騒ぎをした。
 大君に文を送ったのは、都で噂の「名乗らずの公達」だったから。


 

四季恋草紙 春の巻 壱

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 誰にも御名はお教えくださらないのですね、そうこの間の女官は言った。寂しげに笑って。
 せめてお名前の手がかりだけでも、と後朝[きぬぎぬ]の去り際に衣の裾にすがったのはどこかの姫君。
 ことの最中に名を呼んで欲しいと請われ、彼女たちの名を聞いたはずなのだが全く思い出せない。そもそも、端から覚える気などなかったのだろう。一度訪れた女の元へと、自分が再び通うことはないのだから。

 「だから楽しいんじゃないか」

 

平安時代が舞台の恋愛小説を連載しています。ほか、短編や日々の雑記、読書録なども書いてます。小説サイト開設しました!古代日本が舞台の恋愛ファンタジーを連載中。(http://acluster.tumabeni.com/)

プロフィール

紫藤ゆとり

Author:紫藤ゆとり
モノカキのはしくれとなって、はや?年。
まだまだ精進あるのみ。。。
ブランクはありつつも、なぜか書くことをやめられない。
そんな、なぜか理系の女子です。
(4月から大学院生やってます)

好きな作家は 恩田陸、加納朋子、伊坂幸太郎、本多孝好、などなど多数。

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